後藤壮 建築事務所

温熱設計に対するわたしの考え方

家づくりを考え始めたとき、多くの方が「Ua値(断熱性能)」や「C値(気密性能)」といった数値を気にされます。多くの住宅会社・設計事務所・工務店がこのような性能に向き合うことは日本の住宅性能向上において素晴らしい変化だと思います。家庭用エアコン一台で年中一定の温度が保たれる、高気密高断熱な家を建てるために、こうした「数値」を確保することは、今や当たり前の大前提となりました。

しかし、私たちは行き過ぎた「数値競争」と「暮らしの本当の心地よさ」はイコールではないのではと考えています。

屋外から完全に隔離された、まるで「魔法瓶のような箱」の中で、風や陽光を感じずに暮らすことは、本当に豊かな暮らしに繋がるのでしょうか。数値のスペック競争はweb上で過熱していますが、最高グレードの性能が完璧な家を約束するわけではない。今回は、私たちが考える「温熱設計の数値至上主義への疑問」と「豊かな半屋外を取り入れたすまい」という視点からお話しします。

高性能な「快適すぎる箱」が失ってしまうもの

高気密・高断熱の住まいは、確かに快適です。冷暖房の効率が上がり、身体への負担がないことは、これからの家づくりにおいて間違いなく必須のスペックです。その点は私たちも同意です。

ですが、その数値を極限まで追い求めるあまり、窓を開けることを拒み、外にある自然をすべて遮断して暮らすことは本末転倒です。雨の匂い、日影で感じる心地よい風、季節の移り変わり。そうした不完全な「自然のゆらぎ」をすべて排除した完璧すぎる環境は、時に私たちから四季を感じる感性や、自然を受け入れる寛容さを奪ってしまうことがあります。

私たちは基本設計段階で、ただ部屋を暖め、冷やすだけの工業製品のような家ではなく、ご家族が自然に寄り添い、五感を開いて健やかに暮らせる「器」としての温熱設計を大切にしています。

「豊かな半屋外」がすまいにもたらす、本当の贅沢

2020年頃のコロナパンデミック。外出を制限され自宅時間が増えた中でアウトドアが流行しました。私達、日本人のDNAには自然に触れたい。という情報が刻まれているのかもしれません。住まいの中に「屋根がある屋外」や「屋内の土間空間」といった少し不安定な自然を感じさせる空間を取り入れる間取りを私たちは提案しています。これらの設計の最大の恩恵は、自然の曖昧さを日常の贅沢に変えられることです。

例えば、深い軒を出して内と外を曖昧に繋いだウッドデッキ、玄関から繋がる土間テラスなど、屋根はしっかり掛かっているけれど外の空気と触れ合える「半屋外スペース」を設計します。 春や秋の心地よい日は、窓を開け放って半屋外のテラスでコーヒーを飲む。夏にはこども達がビニールプールで遊ぶ。広さという「量」を追って室内を広げるのではなく、こうした自然の移ろいを取り込む「質」のデザインを取り入れる。これこそが、何にも代えがたい本質的な贅沢であり、私たちが目指す自然に素直な住まいの姿です。

温熱設計において、数値をクリアすることは「最終到達点」ではなく、豊かな暮らしを営むための「前提条件」に過ぎません。ご家族の健康と命を守る確かな性能を備えながらも、自然の心地よさを五感で受け入れる「不完全さ」をデザインする。それこそが、これからの時代を軽やかに、そして豊かに生きるための「すまいの原点」だと私たちは信じています。
今日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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